前回の#003では、2024年3月21日、斎藤元彦知事が県幹部に文書について調査・対応を指示し、元西播磨県民局長が文書作成に関わった可能性があると推測されたこと、そして同日、公用メールの調査が始まったことまで確認しました。
今回は、その続きを見ていきます。
県は、元県民局長の公用メールをどのように調べたのでしょうか。
そして、その調査方法や調査目的は、後にどのように評価されたのでしょうか。
ここで重要なのは、単に
「公用メールだから県が確認できる」
という一点だけではありません。
確認する必要があるのは、
何のために調べたのか
誰を対象にしたのか
どの範囲を調べたのか
どのような手続きで進めたのか
公益通報との関係について、いつ、どこまで法的検討が行われたのか
という点です。
1.3月21日、公用メールの調査が始まる
斎藤知事は2024年8月7日の記者会見で、3月21日の対応について時系列を説明しています。
知事によると、3月21日、当時の総務部長が人事課に対し、元県民局長の公用メールの確認調査を指示しました。
知事自身も、
「人事課としての内部調査のスタートは21日」
との認識を示しています。
その後、県側は、公用メールの中で、外部送付された文書の骨子と思われるものがやり取りされていたと確認したと説明しています。
その結果は、3月23日に斎藤知事へ報告されました。
時系列を整理すると、
3月21日
公用メール調査開始
↓
3月23日
文書の骨子と思われる内容を確認し、知事へ報告
という流れになります。
2.「公用メールなら自由に調べていいのか」
ここで、一つ疑問が出てきます。
公用メールは県の業務に使うものなのだから、県が調べても問題ないのではないか。
公用メールは私物のメールアカウントとは異なり、業務のために使用されるものです。
そのため、県が一定の管理権限を持つこと自体は不自然ではありません。
斎藤知事も8月7日の会見で、公用メールについて、
送受信記録を調べる合理的な理由があると考えられる場合には調査可能である
という趣旨の説明をしています。
しかし、
「公用メールを管理・確認する権限があること」
と、
「その権限を、どのような目的・範囲・方法でも使ってよいこと」
は同じではありません。
何が違うのでしょうか。
前者は、
県が業務用メールを管理できる立場にあるか
という管理権限の問題です。
後者は、その権限を使って、
誰を対象に
何を目的として
どの期間・範囲を
どのような方法で
調べることが適切なのかという、権限の行使方法の問題です。
つまり、
公用メールだから確認できる
ということだけから、
どんな目的でも、どんな範囲でも調査してよい
という結論にはなりません。

「公用メールを管理できる」=「どんな目的・方法でも調査できる」ではない
3.参考判例――業務用メールでも監視は無制限ではない
この考え方を理解する参考になる判例として、
東京地裁2001年12月3日判決(F社Z事業部・電子メール事件)
があります。
これは兵庫県の公益通報問題を直接判断した判例ではありません。
民間企業内で、上司が従業員の電子メールを監視・閲覧したことがプライバシー侵害に当たるかが争われた事件です。
裁判所は、社内ネットワークを使用する以上、私用メールについて期待できるプライバシー保護の程度は一定程度限定され得るとしました。
一方で、監視について、
- 監視する者の立場
- 監視の必要性
- 目的
- 手段・態様
- 監視される側が受ける不利益
などを考慮し、社会通念上相当な範囲を逸脱すればプライバシー侵害となり得るという考え方を示しています。
したがって、この判例から兵庫県の本件調査の適法・違法を直接導くことはできません。
ただし、
「業務用メールだから管理側が無制限に調べられるわけではない」
という一般的な考え方を理解する参考にはなります。
4.問題になるのは「見たかどうか」だけではない
公用メール調査を評価するとき、
「公用メールを見たことそのもの」
だけに注目すると、論点が狭くなります。
本来確認すべきなのは、
- なぜその調査が必要と判断されたのか
- 誰を対象としたのか
- どの期間・範囲を確認したのか
- 誰が調査を決定したのか
- どのような記録を残していたのか
- 調査目的が何だったのか
といった点です。
後の百条委員会は、県の初動調査について、知事や県幹部自身が文書の対象者でもあったことなどから、調査の客観性・公平性・独立性を確保する必要があったと評価しています。
つまり、
「県にメールを管理する立場があったか」
という問題だけでなく、
「その立場にある県自身が、この件をどのような体制・目的・方法で調査したのか」
も別途検討する必要があります。
5.公益通報との関係は、いつ検討されたのか
次に確認したいのが、公益通報者保護法との関係について、いつ具体的な法的検討が行われたのかです。
斎藤知事は8月7日の会見で、3月20日に文書を把握した時点では、
外部公益通報に当たるかどうかについて、そこまで具体的な検討はできていなかった
という趣旨の説明をしています。
また、弁護士への相談については、
人事課が4月頃にかけて弁護士と相談した
と説明しています。
さらに質疑では、公益通報に該当するかについて客観的な意見を得た時期について、
4月中旬頃だったとの認識
も示しています。
一方、公用メール調査が始まったのは3月21日です。
そのため、公表されている説明から確認できる大まかな順序は、
3月21日
公用メール調査開始
↓
3月23日
調査結果が知事へ報告
↓
3月25日
元県民局長への事情聴取・公用PC回収
↓
4月頃以降
公益通報該当性などについて弁護士への相談
というものです。
6.この時系列から、どこまで言えるのか
ここは慎重に区別する必要があります。
「公益通報との関係について弁護士へ相談した時期が、調査開始より後だったこと」
と、
「県側が調査開始時点で、自らの対応に法的問題があると認識していたこと」
は同じではありません。
何が違うのでしょうか。
前者は、
相談時期について確認できる時系列
です。
後者は、
当時の関係者がどのような法律理解・認識を持っていたのか
という別の問題です。
したがって、
弁護士への相談が後だった
↓
県は問題があると知りながら調査した
と結論づけることはできません。
また、
弁護士への相談が後だったことだけを理由に、調査そのものが直ちに違法になる
とすることもできません。
一方で、
公益通報との関係について外部専門家の見解を得る前に、作成者特定につながる内部調査が進められていた
という時系列そのものは、後から初動対応の適切性を検証する際の重要な材料になります。
7.「後から法的確認をした」ことと「初動が適切だったか」は別
ここも似ていますが、少し違う論点です。
後の段階で弁護士から法的見解を得たこと
と、
調査を開始した時点の手続きや判断が適切だったこと
も、同じではありません。
前者は、
後から専門家の見解を得たという事実
です。
後者は、
調査を開始した当時の情報、目的、調査体制、手続きなどを踏まえて初動を評価する問題
です。
後から得られた法律意見は、その後の判断を考えるうえで重要です。
しかし、それだけで、
調査開始時点の対応についての評価まで自動的に決まるわけではありません。
これは#002で確認した、
「後から得た情報」と「その時点で持っていた情報」を分ける
という考え方と同じです。
8.第三者委員会はどう評価したのか
ここからは、後の第三者委員会による評価です。
3月21日に何が起きたのかという事実と、その後に委員会がどう法的評価したのかは分けて扱います。
第三者委員会は、3月12日の外部送付について、公益通報者保護法上の3号通報に該当すると評価しました。
その上で、3月21日以降の作成者特定に向けた一連の行為について、公益通報者保護法と法定指針の枠組みに照らして検討しています。
委員会は、知事が作成者特定を急いだ理由として説明した、文書の影響拡大防止などの事情についても検討しました。
その結果、指針上の例外として定められていた「やむを得ない場合」には当たらないと判断し、知事の指示に基づいて行われた通報者探索について、
保護法及びその委任を受けた指針に違反し、違法である
と評価しました。
ここは、特に表現を分けます。
SFC-Labが独自に、
「本件探索は違法である」
と確定しているのではありません。
この記事で確認しているのは、
「第三者委員会が、そのように法的評価した」
という事実です。
その法的評価の妥当性については法解釈上の議論もあるため、判断主体を明示して扱います。
9.「管理権限」と「探索の法的評価」は別の論点
今回の中心をもう一度整理します。
公用メールを管理する権限があること
と、
そのメールを使った作成者特定行為が、公益通報者保護の法的枠組みの下でどう評価されるか
は同じ問題ではありません。
前者は、
県が業務用メールを管理・確認できる権限を持つか
という問題です。
後者は、
調査目的・必要性・範囲・方法・手続きなどを踏まえ、その行為を公益通報者保護制度との関係でどう評価するか
という問題です。
したがって、
公用メールだから調査できる
という説明だけでは、後者への答えにはなりません。
逆に、
作成者を調べた
というだけで、直ちに個別行為の違法性が自動的に確定するわけでもありません。
具体的な法的評価には、当時の法令・指針、調査目的、例外の有無などを検討する必要があります。
本件について第三者委員会は、その検討を行った上で前述の評価を示しています。
10.3月21日から23日までに確認できること
ここで、後の評価をいったん脇に置きます。
2024年3月21日から23日までに確認できる主な事実は、次のとおりです。
① 3月21日、公用メールの調査が開始された
当時の総務部長が、人事課へ元県民局長の公用メール調査を指示しました。
② 調査によって文書の骨子と思われる内容が確認された
県側は、公用メールの中で、問題となった文書の骨子と思われる内容がやり取りされていたと説明しています。
③ 3月23日、その結果が知事へ報告された
その報告を受け、元県民局長本人への事情聴取が必要だとの進言があり、知事は了承したと説明しています。
④ この時点では、公益通報該当性について後に行われた弁護士相談より前だった
知事の後の説明によれば、公益通報との関係について弁護士と相談したのは、その後の4月頃です。
ここまでが、時系列として確認できる部分です。
ファクティの30秒解説

今回の流れを短くまとめると、
1.3月21日、公用メール調査開始
↓
2.3月23日、文書の骨子と思われる内容を確認
↓
3.元県民局長本人への事情聴取へ進む
↓
4.公益通報との関係について弁護士へ相談したのは、その後
という流れです。
ポイントは、
公用メールを管理できること
と、
その管理権限を作成者特定に使った行為が、法的・制度的にどう評価されるか
は別の問題だということです。
11.#004の結論
今回確認できたのは、次の4点です。
① 県は3月21日、元県民局長の公用メール調査を開始した。
② その調査で、外部送付文書の骨子と思われる内容が確認された。
③ 3月23日、その結果が知事へ報告され、本人への事情聴取へ進むことになった。
④ 公益通報との関係について弁護士へ相談したのは、調査開始より後だったと知事は説明している。
公用メールは業務用です。
しかし、
「業務用メールを管理・確認する権限があること」
と、
「その権限を、作成者特定のためにどのように使ってもよいこと」
は同じではありません。
前者は管理権限。
後者は、
目的・必要性・範囲・方法・手続き・公益通報者保護との関係
を含めて評価される問題です。
また、
「公益通報について弁護士へ相談した時期が調査開始後だったこと」
と、
「県側が当初から自らの対応に法的問題があると認識していたこと」
も同じではありません。
前者は時系列。
後者は当時の関係者の法的認識についての問題です。
そして、後の第三者委員会は、県側の作成者特定行為について独自の法的検討を行い、公益通報者保護法と指針に照らして違法と評価しました。
これは、第三者委員会による法的評価として記録します。
次に事態が動くのは、
2024年3月25日。
県は元県民局長本人への事情聴取を行い、公用パソコンを回収します。
次回
【兵庫県政検証録 #005】
公用パソコンの回収――2024年3月25日、県民局で何が起きたのか
公用メール調査の結果を受け、県は元県民局長本人への事情聴取へ進みます。
その際、公用パソコンはどのように回収されたのでしょうか。
県は何を調べ、本人はどのような説明をしたのでしょうか。
次回は、3月25日の現場で何が行われたのかを確認します。
参照した一次資料・参考資料
兵庫県知事記者会見(2024年8月7日)
3月21日の公用メール調査開始、3月23日の報告、本人への事情聴取へ進んだ経緯、公益通報との関係について弁護士へ相談した時期などについて、斎藤知事本人が説明しています。
兵庫県議会 文書問題調査特別委員会
公用メール調査を含む県の初動対応、調査体制、公益通報者保護との関係などについて検証しています。
兵庫県「文書問題に関する第三者調査委員会」調査報告書
3月12日の外部送付の公益通報該当性、3月21日以降の作成者特定行為、指針上の「やむを得ない場合」の検討などについて法的評価を示しています。
東京地裁2001年12月3日判決(F社Z事業部・電子メール事件)
民間企業内の電子メール監視をめぐる裁判例です。兵庫県の事案を直接判断した判例ではありませんが、業務用メールについても管理・監視が無制限ではないという一般的な考え方を理解する参考として掲載しています。
本シリーズについて
「兵庫県政検証録」では、
その日に起きたこと
その時点で当事者が知っていたこと・認識していたこと
後の調査によって確認されたこと
委員会等が後から示した評価
を可能な限り区別します。
また、
「AとBは同じではない」
と整理する場合には、何が違うのかも説明します。
今回でいえば、
「公用メールを管理する権限」
と、
「その権限を作成者特定のために行使したことが、公益通報者保護の法的枠組みの中でどう評価されるか」
は別の問題です。
さらに、
「弁護士相談が調査開始後だったこと」
と、
「県側が当初から、自らの対応に法的問題があると認識していたこと」
も別の問題です。
前者は確認できる時系列。
後者は当事者の法的認識についての問題です。
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記録に光を。議論に輪郭を。

