【兵庫県政検証録 #006】「嘘八百」発言――2024年3月27日、知事は何を根拠に断定したのか

兵庫県政検証録

前回の#005では、2024年3月25日に行われた元西播磨県民局長への事情聴取と、公用パソコンの回収について確認しました。

その2日後――

2024年3月27日。

斎藤知事は定例記者会見で、元県民局長が作成した文書について、

「嘘八百含めて、文書を作って流す行為は公務員としては失格です」

と厳しく批判しました。

さらに、元県民局長の退職を保留したことや、今後の懲戒処分についても言及しています。

しかし、この日の会見時点で、県による文書内容の調査はまだ続いていました。

では、3月27日の時点で県は何を確認していたのでしょうか。

そして斎藤知事のいう「嘘八百」は、どこまで確認された事実に基づく評価だったのでしょうか。

今回は、

① 3月27日時点で確認されていた事実
② 「本人も認めている」という説明の射程
③ 調査中に懲戒処分を示唆したこと
④ 公の場での非難と、後の第三者委員会による評価

の4点から確認します。


  1. 1.3月27日時点でも、県の調査は続いていた
  2. 2.「嘘八百」「公務員失格」――斎藤知事は何と発言したのか
  3. 3.「本人も認めている」は、何を認めたという意味だったのか
  4. 4.「噂話を集めた」という説明は、文書全体の虚偽を意味するのか
  5. 5.「作成・送付」と「虚偽」は分けて確認する必要がある
    1. 確認されていた事実
    2. 斎藤知事側の認識・評価
  6. 6.「流す」という表現はどこまで確認されていたのか
  7. 7.その時点で「嘘八百」と断定できるほど調査は終わっていたのか
  8. 8.「懲戒処分を行うことになる」と発言
  9. 9.処分権者である知事の発言は、調査にどう影響し得るのか
  10. 10.「言葉が強かった」だけが問題なのか
  11. 11.後の第三者委員会は、3月27日の会見をどう評価したのか
  12. 12.後の調査では、文書の内容はどう評価されたのか
  13. 13.後の調査結果から見た「嘘八百」という表現
  14. 14.ファクティの30秒解説
  15. 15.#006の結論
  16. 【兵庫県政検証録 #007】
  17. 公益通報――2024年4月4日、元県民局長は何を通報したのか
    1. 1.兵庫県知事記者会見・2024年3月27日
    2. 2.兵庫県知事記者会見・2024年5月8日
    3. 3.兵庫県知事記者会見・2024年6月20日
    4. 4.兵庫県知事記者会見・2024年7月10日
    5. 5.兵庫県知事記者会見・2024年8月7日
    6. 6.兵庫県「文書問題に関する第三者調査委員会」調査報告書
    7. 7.兵庫県議会「文書問題調査特別委員会」
    8. 8.兵庫県知事記者会見・2025年3月27日

1.3月27日時点でも、県の調査は続いていた

まず重要なのは、3月27日の会見時点で、県による調査が終了していたわけではないことです。

3月21日、斎藤知事は県幹部に文書についての調査を指示しました。

その後、公用メールが調べられ、元県民局長が文書作成に関与した可能性が絞り込まれます。

3月25日には、片山元副知事らが元県民局長を事情聴取し、公用パソコンを回収しました。

この段階で県側が把握していたのは、主として、

  • 元県民局長が文書を作成したこと
  • 文書が複数の外部関係者に送付されていたこと
  • 公用パソコンが使用された可能性
  • 公用パソコン内に、告発文書とは別の私的文書などが保存されていたこと

でした。

一方、文書に記載された知事や県幹部らに関する個々の疑惑について、関係者への幅広い聴取や客観資料による検証がすべて終わっていたわけではありません。

斎藤知事自身も3月27日の会見で、人事当局による調査が続いていることを前提に説明しています。

つまり、この時点で先行していたのは、

「誰が文書を作ったのか」

という作成者側の調査でした。

一方、

「文書に書かれた個々の疑惑が事実なのか」

という内容面の検証は、まだ完了していませんでした。

この時系列を押さえることが、3月27日の発言を評価する出発点になります。


2.「嘘八百」「公務員失格」――斎藤知事は何と発言したのか

3月27日の記者会見で、斎藤知事は元県民局長について、かなり強い表現を使用しました。

県公式の会見記録には、次の発言が残っています。

「業務時間中に、嘘八百含めて、文書を作って流す行為は公務員としては失格です」

さらに、

「同様の行為は今後もあってはならない」

とも述べています。

ここで注意したいのは、斎藤知事が単に、

「文書を作成した行為に問題がある」

と述べただけではないことです。

「嘘八百」という表現によって、文書の中身そのものについても強い否定的評価を示しています。

では、その時点で、文書内容のどこまでが虚偽と確認されていたのでしょうか。


3.「本人も認めている」は、何を認めたという意味だったのか

斎藤知事は3月27日の会見で、元県民局長について、

「本人も認めていますが」

「本人も認めているので」

といった表現を複数回用いています。

この言い方だけを聞くと、

元県民局長自身が「自分は虚偽を書いた」と認めた

ようにも受け取れます。

しかし、ここでは確認された事実と、知事自身の評価を分ける必要があります。

元県民局長が認めていたのは、少なくとも、

文書を作成したこと

です。

また、文書が報道機関や県議会関係者など複数の外部関係者に送付されていたことも、県側では把握されていました。

一方、

文書の記載内容が虚偽だったことを、元県民局長自身が認めた

とまで確認できるわけではありません。

したがって、

「文書を作成したと認めたこと」と、「虚偽を書いたと認めたこと」は同じではありません。

ここは#006の中でも特に重要な区別です。


4.「噂話を集めた」という説明は、文書全体の虚偽を意味するのか

斎藤知事は後の会見でも、3月25日の事情聴取結果について、

「一人で噂話を集めて、当該文書を作成・配布した」

との報告を受けたと説明しています。

また、2024年8月7日の会見でも、文書について、

「噂話を集めた」

「具体的な供述や証拠がない」

という点を問題視しています。

しかし、

「噂話を集めた」という表現があったこと

から直ちに、

文書の全項目が虚偽だった

とまでは導けません。

文書には複数の疑惑が記載されており、それぞれについて、

  • 情報源は何だったのか
  • どの程度の裏付けがあったのか
  • 後の調査で事実と確認されたのか
  • 真実相当性が認められたのか

を個別に確認する必要があります。

3月27日時点では、その作業が完了していませんでした。


5.「作成・送付」と「虚偽」は分けて確認する必要がある

この点を整理すると、3月27日時点で確認されていた事実と、斎藤知事の評価は次のように分かれます。

確認されていた事実

元県民局長が文書を作成したこと。

文書が複数の外部関係者へ送付されていたこと。

公用パソコンが使用された可能性があり、その内部に文書関連データや私的文書などが保存されていたこと。

斎藤知事側の認識・評価

文書には事実無根の内容が多い。

「ありもしないこと」が書かれている。

文書は「嘘八百」を含む。

ここで重要なのは、前者は調査によって確認された行為に関する事実であり、後者は文書内容に対する知事自身の評価だということです。

斎藤知事自身も後の会見で、3月27日の発言について、

自分は文書に書かれた当事者であり、「事実ではない内容が多々含まれている」という認識から発言した

と説明しています。

つまり、「虚偽」という部分は、元県民局長が認めた事実そのものではなく、斎藤知事側の認識・評価でした。


6.「流す」という表現はどこまで確認されていたのか

斎藤知事は3月27日の会見で、

「文書を作って流す」

と表現しています。

文書が複数の外部関係者へ送付されていたこと自体は確認されています。

そのため、「流す」という言葉そのものを直ちに虚偽と評価することはできません。

一方、この表現が、

SNSなどを通じて不特定多数に広く拡散した

かのような意味に受け取られる可能性もあります。

少なくとも3月27日時点で、元県民局長がSNSなどを通じて不特定多数へ文書を公開した事実まで確認されていたわけではありません。

したがって、「流す」という表現を読む際には、

複数の外部関係者へ送付したこと

と、

不特定多数へ広く公開・拡散したこと

を区別しておく必要があります。


7.その時点で「嘘八百」と断定できるほど調査は終わっていたのか

ここまでの時系列を整理すると、3月27日時点で、

元県民局長が文書を作成したことや、外部へ送付されたことなどは把握されていました。

しかし、

文書に書かれた個々の疑惑について、十分な聴取や客観資料による検証がすべて終了していたわけではありません。

その段階で斎藤知事は、

「嘘八百含めて」

と文書全体について強い否定的評価を示しました。

後の会見では記者から、

十分な調査を経る前に、知事自身の主観で虚偽と決めつけたのではないか

という趣旨の質問も繰り返し行われています。

これに対し斎藤知事は、自身が文書に書かれた当事者であり、事実と異なると感じた内容があったため、そのような表現をしたと説明しました。

ここで確認できるのは、

3月27日時点の「嘘八百」という評価には、調査結果だけでなく、告発対象者でもある知事自身の認識が含まれていた

ということです。


8.「懲戒処分を行うことになる」と発言

3月27日の会見では、文書内容への評価だけでなく、今後の処分についても言及されています。

斎藤知事は一方で、

「処分に関しては、今後の調査結果次第」

との趣旨を説明しました。

しかし同じ会見の中で、

「懲戒処分を行うことになると考えています」

とも発言しています。

この時点で、人事当局による調査はまだ継続中でした。

つまり、

調査結果を待つという説明

と、

懲戒処分になるという方向を先に示す発言

が、同じ会見の中に存在していました。


9.処分権者である知事の発言は、調査にどう影響し得るのか

斎藤知事は、単なる第三者ではありません。

県組織のトップであり、最終的に職員の処分に関与する立場です。

その知事が、調査途中の段階で、

「嘘八百」

「公務員としては失格」

と対象職員を公然と非難し、さらに懲戒処分になるとの見通しまで示したことが、

調査を担当する人事当局や、事情を聴かれる職員にどのような影響を与え得たのかは、調査の中立性や処分手続の公正性を考える上で重要な論点です。

後の2024年5月8日の会見でも記者から、

3月27日の「事実無根」「嘘八百」という発言によって、人事当局の調査を受ける職員が萎縮した可能性はないか、

という趣旨の質問が出ています。

斎藤知事はこれに対し、その後、人事当局が弁護士の助言を受けながら関係者へのヒアリングや客観的証拠を積み上げて調査したとして、その指摘には当たらないとの認識を示しました。

したがって、ここでは、

知事の発言が実際に人事当局へ特定の結論を命じた

とまでは断定できません。

一方、

調査が終了していない段階で処分権者が結論を先取りするような発言をしたことが、調査環境に与え得る影響

は別途検討する必要があります。


10.「言葉が強かった」だけが問題なのか

斎藤知事は、その後の会見で3月27日の発言について、

「言い方が本当に強かった」

との趣旨で反省を示しています。

しかし、この問題を単に、

「言葉遣いが強すぎた」

という問題だけで整理すると、重要な論点が抜け落ちます。

3月27日の発言は、

匿名の人物について一般論を述べたものではありません。

元県民局長の退職保留や人事異動について質問される中で行われており、誰を指しているのかが事実上分かる状況でした。

しかも発言者は、その職員の処分に関与する県知事です。

したがって確認すべきなのは、

表現の強さだけでなく、調査途中の職員について、県のトップが公の記者会見で強い否定的評価を示したこと

です。


11.後の第三者委員会は、3月27日の会見をどう評価したのか

後に設置された第三者委員会は、3月27日の記者会見における一連の発言について検討しました。

そして、

元県民局長に対するパワーハラスメントに該当する

との評価を示しました。

2025年3月27日の会見でも、この第三者委員会の認定について斎藤知事に質問が行われ、知事は報告書を受け止める姿勢を示しています。

ここでも注意したいのは、

「後の第三者委員会がパワハラと認定した」

という事実と、

3月27日時点で県がそのような評価をしていた

ことは別だという点です。

本稿では、当日の出来事と、後から示された評価を分けて記録します。


12.後の調査では、文書の内容はどう評価されたのか

では、その後の調査によって、元県民局長の文書はどのように評価されたのでしょうか。

第三者委員会は、文書に書かれた各事項を個別に検討しています。

その結果、

事実と異なる部分や、真実相当性が認められない部分

がある一方、

事実または真実相当性が認められた記載

も複数確認されました。

したがって、

「文書のすべてが事実だった」

と評価することはできません。

しかし同時に、

「文書全体が嘘八百だった」

と整理することも、後の項目ごとの検証結果を正確に表しているとはいえません。

3月27日時点では、そもそもそのような詳細な検証自体が終了していませんでした。


13.後の調査結果から見た「嘘八百」という表現

この点は、3月27日の発言を後から検証する上で重要です。

「嘘八百」という表現は、文書について非常に広範な虚偽性を想起させます。

しかし、後の第三者委員会は、文書の各項目について個別に事実関係や真実相当性を検討し、すべてを一律に虚偽とはしていません。

したがって、少なくとも後の調査結果まで踏まえると、

文書全体を「嘘八百」と一括して評価することは、各項目の検証結果を正確に表すものではありません。

これは、

文書全体が正しかった

という意味でもありません。

重要なのは、

文書の内容を項目ごとに検証することと、文書全体を一つの強い言葉で評価することは別だ

ということです。


14.ファクティの30秒解説


15.#006の結論

2024年3月27日。

斎藤知事は、元西播磨県民局長が作成した文書について、

「嘘八百含めて」

「公務員としては失格」

と公然と非難しました。

しかし、この時点では、県による文書内容の調査はまだ終了していませんでした。

元県民局長が文書を作成したことや、外部へ送付されていたことなどは確認されていました。

一方、文書に記載された個々の疑惑について、十分な聴取や客観資料による裏付け確認がすべて終わっていたわけではありません。

また、

「文書を作成したと認めたこと」と、「虚偽を書いたと認めたこと」

は区別する必要があります。

「虚偽」「嘘八百」という部分には、告発対象者でもあった斎藤知事自身の認識・評価が含まれていました。

さらに同日の会見では、調査結果次第としながら、懲戒処分になるとの方向性も示されています。

処分権限を持つ県のトップが、調査終了前の段階で対象職員について強い評価や処分の見通しを公に示したことが、調査環境や手続の公正性にどのような影響を与え得たのかは、検討すべき論点です。

そして後の第三者委員会は、この3月27日の一連の発言について、元県民局長に対するパワーハラスメントに該当すると評価しました。

文書の内容についても、後の検証では、事実と異なる部分や真実相当性が認められない部分がある一方、事実または真実相当性が認められた記載も確認されています。

したがって、

3月27日時点で文書全体を「嘘八百」と一括して評価することが、確認済みの調査結果に基づくものだったとはいえません。

また、後の項目ごとの検証結果を見ても、「文書全体が嘘八百だった」とする説明は、その結果を正確に表すものではありません。

そして、この会見から8日後――

2024年4月4日。

元県民局長は、県の公益通報窓口に改めて文書を提出します。

外部に送られた3月12日の文書と、県内部の公益通報窓口へ提出された4月4日の通報。

この二つは、法律上どのような関係にあるのでしょうか。


次回

【兵庫県政検証録 #007】

公益通報――2024年4月4日、元県民局長は何を通報したのか

3月12日に外部へ送付された文書。

そして4月4日、県の公益通報窓口へ提出された通報。

次回は、

外部公益通報と内部公益通報の違い

4月4日の通報内容

県がどのように受理・調査したのか

を確認します。


参照した一次資料・参考資料

1.兵庫県知事記者会見・2024年3月27日

斎藤知事による「嘘八百含めて」「公務員としては失格」などの発言、および元県民局長への対応について確認。

2.兵庫県知事記者会見・2024年5月8日

3月27日時点での知事の認識、人事当局の調査への影響をめぐる質疑、その後の調査結果についての説明を確認。

3.兵庫県知事記者会見・2024年6月20日

「嘘八百」「事実無根」という発言について、後の時点で知事がどのように説明していたかを確認。

4.兵庫県知事記者会見・2024年7月10日

「公務員失格」などの発言について、斎藤知事が「言い方が強かった」と説明した経緯を確認。

5.兵庫県知事記者会見・2024年8月7日

3月25日の事情聴取結果、「噂話を集めた」とする説明、3月27日時点の知事の認識などを確認。

6.兵庫県「文書問題に関する第三者調査委員会」調査報告書

3月27日の会見発言、パワーハラスメント認定、文書記載事項の事実関係・真実相当性などを確認。

7.兵庫県議会「文書問題調査特別委員会」

3月27日の発言や当時の調査状況、知事・関係者への証人尋問などを確認。

8.兵庫県知事記者会見・2025年3月27日

第三者委員会報告書公表後、「嘘八百」「公務員失格」発言やパワーハラスメント認定についての知事の説明を確認。


本シリーズについて

「兵庫県政検証録」では、

その日に確認できた事実

その時点で当事者が把握していたこと

当事者自身の認識・評価

後の調査で明らかになったこと

百条委員会や第三者委員会などが後から示した評価

をできる限り分けて記録します。

強い発言や評価が確認された場合でも、発言者の評価をそのまま客観的事実として扱うことはしません。

また、SFC-Lab自身の見解を各論点で積み重ねるのではなく、

何が確認されていたのか

どの部分が評価だったのか

その評価を支える根拠がその時点でどこまで存在していたのか

を示すことを基本とします。

後の委員会等が「違法」「パワーハラスメント」などの評価を示した場合も、その評価主体と時点を明記し、当日の事実や司法判断と混同しません。

一次資料を優先し、読者が資料に戻って確認できる形で検証を続けます。

タイトルとURLをコピーしました